子どもの驚異的な学ぶ力は、どうして学校で発揮されないのでしょうか?
『学力喪失――認知科学による回復への道筋』は、認知科学の視点から「学ぶ力」を失う原因を探り、回復のための具体的な道筋を示す一冊です。
「算数が苦手」・「文章が読めない」といった問題で悩む子どもたちの現状を解き明かし、生きた知識を育てるためのヒントを与えてくれます。
『学力喪失――認知科学による回復への道筋』の概要
タイトル | 学力喪失――認知科学による回復への道筋 |
著者 | 今井むつみ |
ページ数 | 320ページ |
出版社 | 岩波書店 |
発売日 | 2024年9月24日 |
著者について
今井むつみ氏は、言語獲得と認知科学の分野で高く評価されている研究者です。
慶應義塾大学の教授を務める彼女は、子どもの言語習得や学びのメカニズムについて多くの研究を行っています。
著書には『「意味」を生みだす子どもの学び』・『何回説明しても伝わらない』などがあり、どれも教育に携わる人々から絶大な支持を受けています。
『学力喪失――認知科学による回復への道筋』の要約
学力不振の現状と原因
算数や読解に躓く子どもたち
本書は、子どもたちが算数や読解で躓く現状を詳細に描いています。
たとえば、算数の文章題において「意味を理解せずに計算だけを行う」ことがよく見られます。
この「意味の不理解」が積み重なると、中学生や高校生になっても問題解決が難しくなります。
- 算数の課題: 分数や割合といった概念を理解するための基礎が欠落。
- 読解の課題: 語彙の不足や文章間の推論ができない。
- 思考の課題: 状況に応じた視点の変更や複雑な問題の解決が困難。
大人たちの誤解
教育現場や保護者が抱える「学力」に対する誤解も原因の一つです。
特に以下の点が挙げられます。
- テスト信仰: 点数だけで学力を評価しがち。
- 知識偏重: 単なる暗記では応用力が育たない。
- スキーマの欠如: 新しい知識を既存の枠組みに結びつける力が不足。
学びを取り戻す鍵
記号接地とプレイフル・ラーニング
本書では「記号接地」という概念を提唱しています。
記号接地とは、抽象的な概念や記号(例: 数字や言葉)が具体的な経験と結びついて初めて意味を持つことを指します。
- 具体例: 分数の概念を理解するためには、実生活での「分ける経験」を通じて意味を結びつける。
- プレイフル・ラーニング: 遊びを通じて学びを深める方法。たとえば、ゲームや実験を通じて概念を体験する。
自走できる学び手になる
最終的には、自ら学びを進める「自走できる学び手」を育てることが重要です。
そのためには、以下の要素が必要です。
- モニタリング能力: 自分の理解度を自己評価し、修正する力。
- アブダクション推論: 不完全な情報から最善の結論を導き出す力。
- 意欲の維持: 学ぶ楽しさを実感する。
『学力喪失――認知科学による回復への道筋』の感想・書評
本書を通じて、教育現場が抱える課題の本質を深く理解することができました。
特に「記号接地」の重要性についての説明は、教育者だけでなく保護者や社会全体が考えるべき視点だと感じます。
単なる知識の詰め込みではなく、「学び手自身が知識を意味あるものに変える」プロセスが重要であることを再認識しました。
また、プレイフル・ラーニングの具体例は非常に参考になりました。
子どもたちが学びを楽しむことが、長期的な学力向上につながるという視点は、現代の教育に欠かせないものです。
『学力喪失――認知科学による回復への道筋』はこんな人におすすめ
- 子どもの学力不振に悩む保護者
- 教育現場で働く教師や教育関係者
- 子どもたちの「学び」に興味があるすべての人
- 効果的な教育方法を探している方
- 認知科学に基づく学びのメカニズムを知りたい方
本書は、教育の現場や家庭での学びに関わるすべての人にとって、価値ある一冊です。
未来の学びを考えるヒントとして、ぜひ手に取ってみてください。