傷を抱えたまま生きることに悩んでいませんか?
過去のトラウマや痛みをどう受け入れるべきか。
人生において避けられない「傷」を前向きに捉える方法を模索するのは、誰もが一度は経験するテーマです。
『傷を愛せるか』は、トラウマ研究の第一人者・宮地尚子氏が、自らの体験や学びをもとに書き上げたエッセイ。
痛みとともに生きるための視点を、多彩な事例を交えて教えてくれます。
傷を愛せるかの概要
タイトル | 傷を愛せるか |
著者 | 宮地 尚子 |
ページ数 | 240ページ |
出版社 | 筑摩書房 |
発売日 | 2022年9月12日 |
著者について
宮地尚子氏は、トラウマ研究の第一人者であり精神科医・文化人類学者です。
特にPTSD(心的外傷後ストレス障害)に関する研究や、多文化社会における心のケアに焦点を当てた活動で知られています。
その学問的な視点と個人的な体験を融合させ、多くの読者の共感を得ています。
傷を愛せるかの要約
傷を隠さず受け入れることの重要性
本書の中心テーマは、「傷を無理に隠さず、その存在を受け入れること」です。
宮地氏は、癒しがたい傷があるとしても、それを否定するのではなく、傷の存在を認め、その周りをそっとなぞることが大切だと述べています。
- 傷はその人の一部であり、完全に消し去る必要はない。
- 他者からの好奇の目を避けつつ、傷を恥じることなく共に生きる方法を模索する。
- 「弱さを抱えた強さ」を肯定し、自己をエンパワーする。
具体例として、宮地氏が訪れたバリ島やブエノスアイレスでの体験が挙げられています。
異文化の中で「傷」や「癒し」の捉え方が異なることに気づき、多角的な視点を得たといいます。
トラウマ研究から見た「ケア」と「エンパワメント」
宮地氏は、トラウマ研究者としての視点から「ケア」の本質を深く掘り下げています。
- 傷ついた人の自己回復力を引き出すこと。
- 無理に癒そうとせず、共感し、寄り添うこと。
- 「エンパワメント」—すなわち、傷を受け入れた上での力強い生き方を支援すること。
これを読者に伝える際、宮地氏は個人の体験談と学術的な洞察を組み合わせています。
そのバランスが読者に深い理解をもたらします。
記憶を共有し、未来を見つめる
傷を持つ人々に共通するのは、「記憶の共有」の重要性です。
本書では、宮地氏が家族との記憶や過去の出来事について深く考察しています。
特に、“母を見送る”という章では、家族の愛と別れが丁寧に描かれています。
- 傷ついた記憶は無理に消そうとせず、物語として語ることで和らぐ。
- 共有することで、他者との連帯感を得られる。
- 記憶を活かして未来を築く方法が見えてくる。
傷を愛せるかの感想・書評
『傷を愛せるか』を読んでまず感じたのは、著者の視点が非常に温かく、包容力に満ちていることです。
トラウマというと暗いテーマと思いがちですが、本書ではそれを肯定的に捉え、“共に生きる”という新たな視点を与えてくれます。
例えば、「弱さを抱えたままの強さ」という考え方は、自分の弱点を受け入れる勇気を教えてくれました。
また、異文化の視点が多く盛り込まれている点も特徴的です。
特に、バリ島の寺院やアルゼンチンの郊外での出来事を通じて、文化が傷や癒しにどう影響するかが描かれており、読むだけで旅をしているような感覚になります。
一方で、学術的な部分も多いため、全体的に少し難解に感じる読者もいるかもしれません。
しかし、その中に散りばめられた具体的な例や詩的な表現が、文章を柔らかくしてくれています。
傷を愛せるかはこんな人におすすめ
- 過去の傷やトラウマに悩んでいる方
- 傷ついた人への適切なケア方法を知りたい方
- 心の健康に関する幅広い視点を得たい方
- 他文化における癒しの概念に興味がある方
- 自己を受け入れるためのヒントを探している方
『傷を愛せるか』は、傷を抱えるすべての人に新たな視点を提供する一冊です。
そのテーマは普遍的でありながら、文化や個人の物語に根差しているため、読む人それぞれに違った感動を与えてくれるでしょう。
自分の弱さと向き合い、共に生きる強さを得たいと考える全ての人に、ぜひ手に取っていただきたい本です。